ユマニチュード(Humanitude)

ユマニチュード(Humanitude)とは、フランスで生まれた包括的なケア技法のひとつ。
その方法や考え方は幅広いが、主に高齢者や認知症患者の介護の場で用いられることが多い。150にものぼる手法で構成されている。
ユマニチュードの4つの柱
ユマニチュードの実施にあたっては、以下の4つの要素が基本となると言われる。
見つめること
対象となる相手と同じ目線の高さに合わせて、近い距離でじっと見つめる。これは、相手に対して自分をきちんと認識できるようにするとともに、ケアをする自分自身も相手のことをしっかりと確認することができる。
見下ろすのは威圧感や緊張感を与えてしまうのでNGだ。また、片手間で目線を送るのでは足りない。認知症患者の場合は視野が狭くなっていることも考えられるし、気持ちも十分に伝わらないだろう。
話しかけること
優しく、ゆっくりとした口調で相手に話しかける。大きな声や早口では伝わらない。言葉や気持ちを認識するまでには時間がかかるので、何度も繰り返し話しかけることが大切だ。言葉の意図が伝わるだけでなく、相互の信頼感の芽生えにもつながる。もちろん、目線や目の高さはできるだけ合わせた方がいい。
また、言葉選びも重要なポイントだという。単に介護作業のアナウンスをするだけではなく、相手にリラックス感を得てもらうような心地よい声かけをすることで、体に触れられる抵抗感や自宅ではない施設に身を置く不安感から解き放つことができる。
触れること
体に触れること、それは何も介護を受ける立場ではない人であっても抵抗を感じてしまう。想像してほしい。外で見知らぬ人に突然腕を掴まれたとしたら、どう感じるだろうか。驚き・恐怖・不安・怒りなど、ネガティブな感情が引き起こされる。
介護を受ける相手も、それは同じ。認知症によって状況を把握する力が低下していると、施設にいたとしてもまるで私たちがふだん見知らぬ街を歩いているときと同じように捉えていることも考えられる。
そうした場面で人から体に触れられたら、抵抗するのは自然なことと言えるだろう。
相手の体に触れる際には、触れる前に一声かけてきちんと意思疎通をはかる。『言っただけ』で終わらないよう、相手に伝わるように心がける。それだけでも相手は安心感を得て、抵抗は和らいでいくのだという。
そして体を動かす際にはつかむことはせず、体を支えてあげるようにするとよい。相手が安心して、自ら体を起こしやすくするためだ。
認知症患者が自ら立つこと
前段からの続きになるが、手をつかんでベッドから起こそうとすると、された側からは『起こされる』『立たされる』の受け身になってしまう。そうした心境の中では、自分の体を使って動こうという主体性の低下につながりかねない。
日々のさまざまなアクションを、立って行う。筋力や主体的な意思の維持にも効果があり、また寝ているときと視界が変化することで脳に良い刺激を与えることもできるという。
なぜユマニチュードが注目を集めているのか
フランスなどの実際にユマニチュードを取り入れた施設では、導入によるさまざまな効果が報告されている。
たとえばその150にものぼるケア技法の実践により、認知症患者のケア時間が大きく短縮した例や、それにより職員の負担が軽減したという例などが挙げられる。
また、いわゆるテクニックに特化した概念ではなく『人を尊重する』という理念がベースになっており、医療現場・介護現場などの垣根を超えて活用できることも理由の一つだろう。
もちろん背景には、65歳以上の実に15%を占め、認知症患者約460万人以上、そしてその予備軍(軽度認知障害:MCI)は400万人と推計されるほどになった日本の介護福祉の現状がある。
負担の増える介護福祉の現場において、ケアや職員のメンタル面の負担減など、職場環境改善にも寄与することが言えるだろう。
ユマニチュードについては、メディウェルギャラクシーの過去レポート「話題の『ユマニチュード』に迫る!『ホスピタリティ☆プラネット』講演レポート」でも触れているので併せてご覧いただきたい。