医療従事者のワークライフバランス

「ワークライフバランス」とは、「仕事と生活の調和」のこと。
人々の働き方に関する意識や環境が社会経済構造の変化に必ずしも適応しきれず、仕事と生活が両立しにくいという場面が多くみられるようになった。誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域などに自分の時間を充てられる健康で豊かな生活ができているか。社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならないと内閣府においても掲げられている。
また、働く人それぞれの事情に合わせて多様な働き方を認めるダイバーシティとも深いつながりがある。近年では、こうしたワークライフバランスやダイバーシティの拡充による経営への好影響についても声が聞こえることが多くなった。
医療の現場におけるワークライフバランス
医師や勤務医、看護師などの医療施設で働く人たちにとって、ワークライフバランスの実現は簡単なことではない。
その理由として、労働の長時間化、そして労働環境の厳しさなどが挙げられるだろう。
勤務時間に関しては救急や外科などで対応が長時間化しやすい傾向にあり、科ごとに差はあるものの総じて勤務時間は長め。
さらに医療施設では、入院患者や急患に対応するために当直が必要になる。連続した当直がないようなシフトの配慮や仮眠が可能な体制などにより医師や看護師の負担は軽減できるが、こうした環境整備の度合いは施設ごとに異なり、まだまだ改善の余地は大きい。
自宅待機も多く休日の取得や睡眠時間の確保が難しいことからの疲労、そして職場環境や患者対応から来る医師のメンタルヘルスについても耳にすることが増えた。
また、女性が多い看護師では特に結婚・出産・育児によって仕事と生活の両立が困難となり離職するケースは依然多く、こうした状況への対応が難しいためにワークライフバランスが浸透しないという現実もある。
どのようにして、医療の現場にワークライフバランスを取り入れるか
勤務の長時間化や当直などがある職場において、どのようにワークライフバランスを導入していくか。
まず一つには、シフトに柔軟性を持たせることがある。一般企業等でもフレックスタイム制や時短勤務など、多様化している勤務形態。それを完全に導入することは難しいが、医療施設向けにカスタマイズして勤務時間を細分化し、各人のシフトに柔軟性を持たせることは可能だろう。
もちろんシフト管理が困難になるため、クラウドを用いたシフト管理サービスなどを導入しリーダーの負荷を軽減したりシフトのミスを無くすなどの対応は必要になる。
次に、一人ひとりの状況に応じた勤務形態が選択できる環境づくり。生後数年の育児、子どもの送り迎え、介護などの事情に応じて勤務時間の増減をコントロールし、また当直シフトから外すなどの対応ができるような環境を作る。
単純にルールだけでなくスタッフに理解を得られるよう説明やフォローをしっかり行うことや、勤務内容の負担・賃金に関する不公平が生じないような仕組みづくりも必要。
実務面では、業務の見える化を促進するなどが考えられる。連絡帳、ホワイトボードやタブレットなどのツール類による業務状況の共有によって、シフトの交代時にスムーズでミスのない引継ぎが行えるようになる。なかなか可視化が難しい情報に関しては、1人1人がバラバラに動くのではなく必然的にコミュニケーションが生まれるよう、連絡役を配置したりするなどの工夫が欠かせない。
まとめ
すでに動いている組織の中でこれらのワークライフバランス導入事例を実際に行うのは、どれだけ完全な制度やルールを作っても、たとえ一人の医師がどれだけ努力をしても、非常に難しいことである。
こうした多様性のある働き方の実現のために大切なのは、チームワーク。医師や勤務医、コメディカルのスタッフたちが、お互いの生活や仕事に関心を持ち、配慮をし合う。誰かが時短勤務をすることで増える負荷をみんなでカバーし合えるような関係、それはつまるところ、日々のコミュニケーションによって築き上げられていくものだからだ。