医療機関や福祉施設でのPDCAサイクルの考え方

昨今、医療機関を取り巻く環境は急速に変化している。診療報酬制度の改定、外来患者の減少など、その要因はさまざまだ。また一方で、内的環境である設備数・床数・患者数・スタッフ数などに対しても常に最適な解答を見出し、それを実践し続けていかなければ、こうした環境変化に対応できなくなってしまう。
福祉施設も同様だ。2015年には介護報酬も改定され、今後はますます事業運営が厳しくなっていくものと思われる。
こうした中で、民間企業の事業改善における考え方として一般的な「PDCAサイクル」が、医療機関・福祉施設においても効果を発揮すると言われている。
PDCAサイクルとは
PDCAサイクルは、事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法の一つで、主に民間企業の改善手法として用いられている。Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)の 4つの行程をサイクルとして繰り返すことによって、継続的に改善する。(参考:wikipedia)
近年ではこの手法が企業だけでなく医療機関や福祉法人などにも置き換えができるとして積極的に用いられ、実践している内容の事例や実際に上がった効果・成果に関する報告なども数多く知ることができる。
だが、こうして成果が出せる組織もあるかたわら、非常に多く聞こえるのはこんな声だ。「サイクルの考え方自体は知っていても、いざ実践するとなると漠然としておりどのように進めていけばいいのかわからない」「P、Dまでは実行できたが、そこでやりっぱなしになってしまった」・・・
ここでは、そうした理由からPDCAサイクルの運用を完遂することができなかった医療機関や介護施設に対して、一つのアプローチを紹介したい。なお、この考え方は組織の規模に関わらず置き換えて実践することが可能なので、是非とも試してほしい。
医療・福祉のPDCA。Plan(計画)から始めて大丈夫?
PDCAを実践するにあたって、サイクルの起点となる計画(Plan)。残る3つのサイクルを効果的に回す上で、適切なPlanを組み立てるのは非常に重要な事項である。
先述した「サイクルの考え方自体は知っていても、いざ実践するとなると漠然としておりどのように進めていけばいいのかわからない」「P、Dまでは実行できたが、そこでやりっぱなしになってしまった」というサイクルの中断も、このPlanが弱かったために起こることが多い。
それでは、適切なPlanを組み立てていくにはどのようにすればよいのか。
Planをつくる際にまず考えられる手順は、最終的に得たい・得られるであろう成果に対し何を行えばよいかの仮説を立てて、実行計画に落とし込んでいく、ということだ。得たい成果が得られている状態を描くのはPDCAにとって不可欠なことだが、実際にはその仮説だけでは計画の根拠(エビデンス)は乏しく、実行できたとしても活きた検証(Check)を行うことができない。
ここで忘れてはいけないのは、そもそも自分の組織の置かれている現状はどうなっているのか、という「現状確認」を行うことである。
現状、どの地点に立っているかも分からない内からゴールを決めて進めるというのは、深い霧の中を歩いているのと同じで正しい方向に進んでいるのかどうかの確証を得ることができない。
つまりPlanを立てる前に、「現状確認」・・・本来サイクルの3番目にあるはずの「Check」が、まず初めに必要ということである。
CPDCA・・・定量化(数値化)した現状確認で、厚みのあるPlanづくりを
現状把握(Check)は、計画と比べてスムーズに実施できるだろう。なぜなら不確定な将来を予測し検討する計画と違い、すでにあるものだからだ。
得たい成果に対して必要と思われる現状の情報を整理していく。施設規模、病床数、設備や器具、スタッフ数などの施設内の情報であったり、立地や患者のセグメントなどの周辺環境であったり、病院の経営を主に支えているのはどこになるのか、逆に足を引っ張っている要因は何なのかなど医療福祉サービス面の切り口であったり、患者や利用者一人あたりの点数分析であったり・・・それは求める成果に応じてさまざまだ。
ただ1つだけ、留意すべき点がある。どんな情報であっても、可能な限り定量化(数値化)すること。あいまいなものでも、よく考えて数値化することができないかを考える。
そして現状を数値でまとめることができたら、それをどこまで引き上げたいのか、ということを考える。これがPlanにつながっていく。PDCAの前にCheckがある、いわばCPDCAである。
何もない状態からPlanを練るのに対して、その元になるエビデンスがあるぶん計画に厚みが出るため、実行計画に落とし込みやすい。数値が明確に出ている分、実現困難な計画を立てることもなくなる。これで「漠然としていて進められない」というハードルをクリアすることができる。
Doまで行けたら二度目のCheck
実行(Do)まで終えることができた場合には、本来のPDCAの流れに基づきCheckを行う必要がある。ここでぶつかるのが、「P、Dまでは実行できたが、そこでやりっぱなしになってしまった」というハードル。こうした中断が起きてしまう理由としては、Checkの手順がボンヤリしていてハッキリした答えが出せないから、ということが潜在的にあるのではないかと思われる。
なぜなら、現状確認無しにPlanを立てた場合、せっかく成果が出せたとしてもその要因がどこにあるのかがハッキリわからないからだ。もしかしたらそもそも実行する(Do)よりも前に、ある程度成果を出せる要素が集まっていたのかもしれないし、あるいは実行(Do)を頑張ったおかげなのかもしれない。
Planの前のCheckとして現状を定量化して確認しておくことによって、Doの成果をより正確に把握することができる。さらに、かつての現状との比較だけでも最低限の成果確認はできるため、Checkの手順はとてもシンプルだ。
成果が上がっていてもいなくても、その要因をPlanとDoの中だけに見出すことができ、次のActionへとつなげやすい。
まとめ
PDCAは、個人の習慣と同じで毎日の意識継続と積み重ねが大切だ。習慣においては短期間での成果よりも「続ける」ということに着目する。
たとえば毎日30分のジョギングを決めて1か月で2kgのダイエットを目指している人が、1か月が経とうとしたある日、1kgまでしかダイエットできず、走る気にならなかった。その気分の波に任せて走るのをやめた場合と、次にまた気分が乗るときまで我慢してたったの1分だけでも走ろうと続けた場合。1か月では求めた成果は得られなかったとしても、2か月後や3か月後に、目標だった2kg減のダイエットに成功するのはどちらの場合だろうか。
Planの中に問題があって成果が出せなかった場合、その反省を踏まえて次に生かすのが「Action」。たった一度のサイクルを回しただけで、良しあしを断定してはならない。特にPDCAを主導する立場にある人は、ここを誤ってはならない。
サイクルを絶え間なく繰り返していくことで、あるべき姿に近づくことは必ずできる。まずはPDCAの前に、現状のCheckを始めてみてほしい。