知的障がい児・者にサッカーを通じて笑顔を。特定非営利活動法人『トラッソス』吉澤昌好さんインタビュー【後編】

知的障がいをもつ子どもと接して初めて感じた『この子とサッカーがしたい』
―吉澤さんはどういった経緯でこの『トラッソス』の設立に至ったんですか?
吉澤「『トラッソス』は今年で10年、任意団体のころを含めると12年になりますから、もうずいぶん前の話になりますね・・・。
以前は、プロリーグにも参加しているクラブチームの下部組織で、指導者をしていました。
クラブで教えているときの自分は、とにかく結果を出すこと、勝つことに集中し、クラブ生たちにはずいぶんと厳しいこともさせてきました。
そんな中、ひょんなことから別のアルバイトを掛け持ちするようになったんです。特別支援学級で子どもたちを相手にサッカーを教えるというものでした。
ある日、知的障がいのある生徒の一人がボーっとしているのを見て。顔はうっすら笑っていたんですけど。それで彼のそばに寄って、ボールをクルッと回転させて転がして見せた。そしたら、それまでうっすらとだった笑みが、パッと、明るいニコニコとした表情に変わったんです。
そのときでした。『この子とサッカーがしたい!』っていう感情が、自然と心の中から溢れてきたんです。
今までの自分は、そんなことを感じたことは一度もなかった。ほら、部活とかでも監督が出場選手を決めるわけだから、そこに『誰かとやりたい』なんて感情、なくてもいいわけじゃないですか。サッカーを人とやるということなんて当たり前すぎて、改めて『誰かとやりたい』なんて思ったことはなかったんです。
それが生まれて初めてそう思って、自分の中で何かカチッと、大きな変化が起きました。
勝つために、自分の立てた練習メニューや戦術を選手たちに『実行させる』。けれど、そこに選手自身のポジティブな気持ちは存在しているのか・・・僕自身も目をつり上げて、声を荒げて命令する。選手は試合に出るために、葛藤しながらもそれに従う。本当にそれでいいのかと。
長い葛藤の末にクラブチームを去り、それからしばらくの準備期間を経て、『トラッソス』の設立に至りました。」
コーチとスクール生という立場はあっても、同じ仲間だと思ってる
―障がいをもった方々とスポーツを通じて接する際に、特に意識している点などはありますか?
吉澤「『させる』ことはできるけど、そうしない。ヒントを与えて彼らが自ら気づくことができるよう導いています。
コーチとスクール生という立場の違いはありますけど、彼らは一緒にサッカーをやってる仲間です。指示や強制ということは絶対にしません。
障がいの程度など一人ひとり違いますから、もちろん誰でもが同じように気づいたり、できるようになったりするわけではないです。けれど、それは全然問題じゃない。
ただ日々、彼らの目線で接し続けていくことやご家族の方々とのやり取りの中で、一人ひとりにとっての答えを見つけ出していく感じですね。その答えにたどり着くには、特別な方法論があるわけじゃなく、究極的に、とことんまで向き合い続けるしかないんです。
彼らは自分の考えていることや感じていることを伝えることが上手くできないけれど、本当に純粋で真面目な、いい子たちばかりです。素直に興味を示し、素直に人と接している。彼らが目を輝かせてボールを追いかけている様子を見ていると、僕たち自身、こんなに素直に人と接することができているだろうか・・・と考えさせられることも多いです。」
―今後の『トラッソス』についてどんな展望をお持ちでしょうか?
吉澤「より多くの指導者を育成し、知的障がいをもった方々が地域でスポーツ交流ができる場を増やすことに貢献していきたい。
スポーツに携わる仕事を夢見ている人たちに『こんな仕事があるんだ』『自分もやってみたい』と憧れるような活動に育てていきたいですね。もちろん、そのためにクリアすべき法人運営上の課題も、現実として多くありますが。
それから先の未来は・・・、こんなこと言うと矛盾しているようにも感じるんですが、僕は『障がい者スポーツ団体としてのトラッソス』は無くなってもいいと思っているんです。
健常者と障がい者がスポーツを通じてお互い自由に楽しむことのできるコミュニティとして『障がい者スポーツ団体』という枠を取っ払った『トラッソス』が、自然にみんなの間に存在している・・・それが一つの理想ですね。
今はそういうコミュニティ自体がほとんどありませんから、障がいのある方々には自分の居場所を選ぶということが難しいという現状があります。
彼らに選べる環境を、もっと言うなら生きやすい世の中を、私たちの活動を通じて提供できるようにしたいと考えています。」
◆特定非営利活動法人『トラッソス』では、法人の理念や活動内容にご賛同いただけた企業の方・個人の方からのご支援とご寄付をお願いしています。