「病院の教科書」として、日本の医療を下支え! 公益財団法人日本医療機能評価機構・後(うしろ)理事をインタビュー

こんにちは。メディウェルギャラクシーの安部です。
近年、メディアや患者たちの間で関心を集める「医療安全」・・・。
東京・千代田区には、そんな日本の医療安全を陰から支える機構があります。
公益財団法人 日本医療機能評価機構では、全国の病院から医療事故の情報を収集し、病院に対してフィードバックを行っています。
今回は、日本医療機能評価機構で医療事故情報収集等事業を統括する後(うしろ)理事にお話を聞きました。
機構の中心的な事業である『病院機能評価』とは?
―まずは『病院機能評価』についてお聞かせください。
後「病院機能評価とは、国内の病院に対して第三者の視点から、さまざまな項目での評価を行い、その結果をもって病院を評価する事業のことです。
一定以上の水準に達した病院には認定証を発行し、水準の維持と、さらなる医療機能の向上に励んでいただいています。」
―第三者が病院を評価することで、自分の病院の問題点を見つめ直し、改善につなげていくキッカケをつくるというわけですね。
後「そのとおりです。我々としては、今後より多くの病院に評価を受けていただき、認定を取得してほしいと考えています。」
―認定の取得が、患者や家族にとって安心・安全の証になるというわけですね。
後「はい。ただそのためには、もっと一般の方々にも認定のことを知ってもらわなければならないので、そこは今後も大きな課題として取り組んでいかなければと考えています。
病院が宣伝や広告をするということに対しては、国の規制がありますが、実は『当機構の認定を取得していることを病院がアピールする』のは、国から許可されて広告できるんです。
認定を取得することが患者さんたちからの信頼にもつながる、というメリットを、病院側にも感じてもらえるように推進していかなければなりませんね。」
世界的にもユニークな『医療事故情報収集等事業』
―機構で約10年間医療安全という分野に取り組まれてきて、どんな変化を感じますか?
後「かつては、医療安全は日の当たらない仕事で、全く表に出ることもない世界・・・という印象を、自分自身もっていました。
ところが、近年では『医療の安全は医療の質の中心的な価値』と言われるほど主流になってきたので、随分と社会の受け止め方が変化したという印象があります。
もちろん『病気を治す』や『症状を和らげる』なども医療の質を向上させるための重要な価値です。ただ、最近は特に『安全な医療を提供する』という点にもスポットが当たるようになってきたな、というふうに感じています。」
―そんな中で機構の事業として『医療事故情報収集等事業』を推進していますね。
後「先ほどお話した病院機能評価は日本以外のいろいろな国でも行われていて、国ごとにやり方は違いますが、第三者が病院を評価するという考え方は浸透しているようです。
しかしこの医療事故情報の収集という事業、これは国際的に見ても非常にユニークなものなんですよ。」
―どこかで医療事故が起こっていないか、その情報を集めているということですか?
後「正確に言うと、当事業に参加いただいている病院や診療所で医療事故が起きたとき、当機構に報告していただく、ということです。
その報告では、医療事故の背景・要因や、事後の改善策などもまとめてから報告してもらいます。そして我々はその内容を確認し、再発防止や未然防止に役立てるために、他の参加病院にも一斉に発信して共有するのです。」
九州大学病院で医療安全管理部部長も務める後理事。
終始穏やかに、インタビューに応えていただいた
事業開始以降、一貫して進めてきた「報告しやすい環境づくり」
―なんだか、『わざわざ自分のミスを表に出したくない』という心理が働くような気がするのですが・・・どういった点でユニークな取り組みだと言えるのでしょうか?
後「『ミスをさらけ出したくない』という抵抗があるのは分かっていました。そこで我々は、事業開始以来、2つの原則を一貫して大切にしてきました。それが『匿名性』と『非懲罰性』です。
匿名性とは、事故を報告した病院の名前を一切出さない、ということ。
そして非懲罰性とは、事故報告に対して機構からのペナルティは一切ない、ということです。
はじめは『本当に匿名が守られるのか』とか『責任を問われるのでは』という意識もあったと思われますが、毎年コツコツと事業を継続していく中で理解が広がり、今では年々、参加病院数も報告件数も増えてきています。
誤解を避けるために言いますと、報告件数増=事故件数増=医療が危険になった、という意味ではありません。
医療事故の報告件数が増えることは、医療事故情報収集等事業への理解や、参加病院で報告の意義やメリットに対する理解が進んでいるのだと考えています。
さらに報告の内容も、実際に起こっている事例なので、他の病院にとって非常に役に立つものが多く、活用度合いが高いというのも特徴ですね。
こうした取り組みが有機的に運用され、それが1億人以上の人口を抱える国で、全国規模で行われているというのは世界的にも稀有で、大きな注目を集めています。日本の持つ優れた特徴なのではないでしょうか。」
―ゼロからのスタートで、ここまで事業を育て上げてきたということですね! これまでの取り組みの中で、特にやりがいを感じたことについて聞かせてください。
後「10年を経過したとはいえ、事業の発展はまだまだこれからが本番です(笑)。
ただ、医療事故調査制度などの議論が盛んになる昨今で、世界保健機関(WHO)といった国際機関からも、『匿名性』『非懲罰性』の重要性が示されたり、この事業がレポートで取り上げられたりしているのをみると、事業の意義や運営方針が強く後押しされた、というふうには感じましたね。
このような報告制度を運営する中で、先ほどお話した原則を開始当初から今日まで大切にしてきたことが、今では医療安全を進める上での当然の原則になってきた気がします。」
『病院』を変えていく! 次の時代の『病院の教科書』へ
―機構の活動が日本医療に与えている影響について、お聞かせください。
後「医療事故情報をフィードバックした病院からは、様々なご意見をいただいています。『参考になった』という声や『当院ではこうしている』などの情報提供など。
医療機関の運営は、施設ごとに独立性が高く、また、忙しいので、他の病院がどんな改善や工夫を行っているかを知る機会がなかなか得にくいのですね。閉鎖的な側面と見られることもあります。
だから『正しい』と思っていることでも、外に目を向けて他の施設を見たら『もっといい方法があった』と気づきが得られるはずです。当機構では、その機会の提供を促進しています。
それを繰り返して、浸透させていくことで、病院が組織として有機的に動き出す、というか。病院同士の横のつながりが深まり、盛んに連携しながら質を高め合うというプラスのサイクルを生み出すことに貢献することができるだろうと考えています。
それによって『国内のどんな病院でも、一定以上の水準をもっている』という、全体の底上げが進みます。病院の水準が上がるということは、つまり『病院機能評価』で認定を受けることができる病院も増えていく、というふうにつながっていきますね。」
―世界的に見て注目されているということは、やはり国際社会にも発信されているんでしょうか?
後「報告書の英訳版や海外での講演など、情報発信は積極的に行っています。今年もアイルランドやブラジルでの講演があります。
外国にも報告制度をもつ国はありますが、わが国の医療事故情報収集等事業のように、リスクを伴う手技に関する医療事故といった、病院同士で学ぶべき価値の大きい事例が数多く報告されている事業は珍しく、『医療安全』という分野において、これからも日本が世界の中で存在感を示し続けることができればと思っています。」
『医療事故情報収集等事業』に、少しでも多くの病院に参加してほしい!
―では最後になりますが、何かこの場で伝えたいメッセージなどありますか?
後「これからも、少しでも多くの病院や診療所に、事故情報等収集事業に参加していただければと思います!
報告するためには、忙しい中業務の中で事実確認や分析のための時間を作らなくてはならなかったりするなど、大変なことも多いのですが、メリットも非常に大きいです。
つまり、事故を報告するためには『何が起きているのか。なぜ起こったのか』と、自分の病院を見つめなおす必要があります。
そうすると、これまでは気にしていなかった小さな問題点や、スタッフ同士の認識の相違なども明らかになります。そこで、議論も活発に行われるでしょう。自院に対してより深く知り、より良い病院運営への足並みを揃える非常に貴重な機会となります。
そうして提出いただいた報告は、参加されている全ての病院にタイムリーに発信されます。
『報告は荷が重い』と感じられている方でも、まずはヒヤリ・ハット事例の報告の参加だけでもしていただければと思います。
そして他院の事故情報が自院の改善に活用できることを実感いただいて、報告の大切さを知ってもらえたら嬉しいですね。そうしてお互いに情報提供し合って医療の質の向上に役立てていただけたら、我々にとってもこの事業の使命を果たすことができているということになりますから。」