「限界なんてない」脊髄損傷者専門のトレーニングジムを運営するJ-Workout株式会社代表の伊佐拓哲さんをインタビュー

こんにちは。メディウェルギャラクシーの安部です。
東京は豊洲。脊髄損傷者専門のトレーニングジムがあるということで、早速取材に行ってきました。
脊髄損傷者専門トレーニングジム「J-Workout」で代表取締役を務める伊佐拓哲(いさ たくのり)さん。実は伊佐さん自身も、事故で脊髄を損傷し、四肢麻痺という障がいを持って生活しています。
伊佐「当社のような脊髄損傷者を専門としたトレーニングジムは国内はもちろん世界的にも珍しく、今は日本全国、そして中国などからも会員様が集まっています。
2015年1月には本社を豊洲から木場へと拡大移転する予定です。それに次いで、遠方からいらっしゃる方は、特に関西圏からお越しいただいている方が多いということもあり、2015年夏に大阪にジムを新規オープンする計画を進めております。いろいろと大忙しです(笑)。」
似ているようで違う「トレーニング」と「リハビリ」
―脊髄損傷者のトレーニングということは、リハビリを行っているということでしょうか?
伊佐「いえ、リハビリとは異なります。
一般的に脊髄損傷者におけるリハビリとは『動く部位を使って日常生活を送るための訓練』ということだと理解しています。
ですが当社で提供しているトレーニングとは、麻痺した部位の筋肉にもアプローチを行い続けることで、動く部位と併せてトータルでのカラダづくりを進め『再歩行』を目指していく…というものになります。」
―麻痺した筋肉へのアプローチが、リハビリ以上の回復につながる、と。
伊佐「従来の一般的な認識は『脊髄損傷によって動かなくなった部位は、二度と動かない』というものでした。
ですが、動かない部位のトレーニングを継続することで、現実に『これまでよりも動けるようになった』『立ち上がることができるようになった』『歩行ができるようになった』という成果も出ています。
こうした事例が数多く出てきたことによって、最近では少しずつ脊髄損傷に対する認識にも変化が出ているようです。」
―具体的にはどのようなトレーニングを行うのでしょうか?
伊佐「『脊髄損傷』と一括りにしてしまいがちですが、損傷の仕方やその度合いによって、現れる障がいの種類や程度は様々です。
1人ひとりの障がいに合わせたその人だけの専用トレーニングメニューを、当社スタッフが作成します。
様々な障害レベルに合わせ適切なデバイスを選定し、安全かつ積極な歩行トレーニングを行っている様子。
また、トレーニングルームは車イスでの移動やスタッフの介助も考慮して設計されており、メニューをこなす際にはトレーナーがマンツーマンで付き、さらに2人につき最低1人のアシスタントが付きますので、ご自身で全く動けない重度の障害のある方でも不自由なくご安心してトレーニングに集中していただけます。
私自身も当事者として、当社のジムでトレーニングを行いながらユーザー視点での意見をトレーナー達に伝えています。また、正解のない分野だけに色々と模索したり試験的に実施する必要があるのですが、そうした際に自分が率先して行えるという意味では役立っていますね(笑)。」
創業者の想いを受け継ぎ『KNOW NO LIMIT』の精神で、限界のない未来へ進み続ける
―会社の立ち上げはご自身で?
伊佐「いえ、創業者は渡辺淳という、私の中学校時代からの友人です。
今から12年前、私が脊髄損傷になったときは、車いすでジムに行ける環境は日本にはありませんでした。
当時、アメリカで当社の原型となるトレーニング施設を見つけた私は、交流のあった渡辺に通訳をお願いし、その施設を2人で訪れました。そこで感動した私たちは、『いつか必ず日本にこのような施設をつくろう!』と決心したのです。
彼はアメリカにあるそのトレーニング施設に就職し、それから二年が経ちました。トレーナーとして一人前になった彼は、日本に帰国し私と共に当社を立ち上げることになりました。
渡辺はジムをオープンさせ、私は脊髄損傷者トレーニングの認知を広げるために当事者としての切り口で社会復帰を支援する協会を運営し、トレーニングを受けている人も受けていない人も受けられない人にも希望が与えられるように協力体制を取っていました。
しかし三年半ほど前に、渡辺はマラソン中の急性心不全で他界してしまいました。
当時はその悲しみや、残った会社をどうするかなどで、とても悩みました。自分自身のこととも、深く向き合って考えました。
私は事故で脊髄を損傷し、下半身麻痺と、両手にも一部麻痺があります。この事故によって、たくさんのものを失いました。
けれど・・・『いや、諦めきれないっしょ!!』と思ったんです。選択肢は確かに減りましたが、新たな可能性もたくさんある。
渡辺の想いを受け継ぎ、『KNOW NO LIMIT』というスローガンを掲げ、自分自身と多くの患者たちのより幸せな生活のために、進み続けていこうと決めたのです。
私はしばらく経営陣に身を置き、そこから現在は代表として、彼の遺したこのJ-Workoutを受け継ぐことにしました。」
―『KNOW NO LIMIT』とは?
伊佐「その文の通り『限界なんて無いんだということを知ろう』という当社の企業理念です。
『ここまでしか動かせない』なんて限界は無いということを信じて、より多くの人に希望を与えるべく、同じ名前でイベントも開催しています。」
同社が年に一度開催している脊髄損傷者による歩行披露イベント『KNOW NO LIMIT』は、トレーニングを重ねた会員が立ち上がり、歩行できるまでに回復した様子をステージで披露し、トレーニングの可能性を来場者たちに伝えています。
今年で8回を迎えるこのイベントは、年々熱気が高まっているそうです。
―いろいろと動かれているんですね!トレーニングをしながら事業運営を続けている伊佐さんですが、大変だなと思うようなことはありますか?
伊佐「けっこう楽観的なところもあって(笑)、私自身がキツイとか苦しいとかはあまり思わないですね。
トレーナー達はいつも多くの会員様と向き合い続け、トレーニングのサポートやメニューづくり努力してくれているので、それに比べたら自分のことなんて言ってられません。
それに会員のみなさんも、本当に一生懸命、つらいトレーニングに取り組んでいますから。目標を達成したときのみなさんの表情を見ていると、自分もまだまだ頑張ろうと、元気をもらっています。」
―J-Workoutと脊髄損傷者の今後について、考えているところを教えてください。
伊佐「今は再生医療なども発展していますので、これから先の未来は我々にとっても期待が大きいところです。
ただ、全くトレーニングをせずに筋肉が衰えてしまった状態でその未来を迎えても、恩恵をじゅうぶんに受けられないかもしれません。
そうした意味でも、1人でも多くの方に自分の可能性を信じてほしい、また立って歩けるようになってほしいと思っています。
その想いを、トレーニングと『KNOW NO LIMIT』などのイベントを通じて伝えていけたらいいですね。」
◆脊髄損傷者による歩行披露イベント『KNOW NO LIMIT』
2014年11月24日(月・祝)
10:00開場 10:30開会
@東京国際交流館
チケットの購入はこちらから
◆J-Workout株式会社